「マーケティング戦略」という言葉を耳にしない日はない、というくらい、現代ビジネスに欠かせないキーワードになりましたね。でも、いざ自社のマーケティング戦略を考えようとすると、「何から始めればいいの?」「ツールが多すぎてどれを選べばいいかわからない」「予算もノウハウもないけど、本当に効果があるの?」といった疑問や不安に直面する担当者の方も多いのではないでしょうか。
このコラムは、そんな疑問をすべて解決するために作成した、マーケティング戦略の「完全版」ガイドです。公益社団法人日本マーケティング協会の最新定義から、コトラーや株式会社刀の森岡毅氏といった著名なマーケターの思想、そしてデジタル時代の最新トレンドまで、網羅的に解説しています。さらに、資金力で劣る中小企業や地方企業が、いかにして独自の強みを活かして成功できるか、具体的な事例を交えながら、戦略立案のヒントを惜しみなくご紹介します。
最後まで読めば、あなたの会社に最適なマーケティング戦略を組み立てるための羅針盤が見つかるはずです。ぜひ、読み進めてみてくださいね。
マーケティング戦略の概念
まず、私たちがマーケティング戦略について語る上で、その根本的な定義を理解することが不可欠です。現代のマーケティングは、単に「モノを売る」活動から大きく進化しています。ここでは、日本マーケティング協会の新定義と、コトラーの思想を通じて、現代のマーケティング概念を再定義していきましょう。
日本マーケティング協会の新定義
2024年、公益社団法人日本マーケティング協会(JMA)は34年ぶりにマーケティングの定義を刷新しました。これは、現代社会の大きな変化に対応するための、まさにパラダイムシフトと言えるものです。旧定義では、マーケティングは「市場創造のための総合的活動」と、企業を中心とした視点でした。
しかし、新定義では、「顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである」とされています。
この変更が示すのは、マーケティングの目的が「市場創造」から「より豊かで持続可能な社会の実現」へと拡張されたことです。企業が一方的に価値を提供するのではなく、顧客や社会そのものと「価値を共創」していくという、根本的な考え方の変化が読み取れます。これは、ESGやSDGsといった社会的要請の高まり、企業の社会貢献や倫理観を重視する消費者トレンドへの明確な応答です。

この「価値共創」の考え方は、私たちの戦略設計ノウハウと深く関連しています。私たちは、WHO(誰に)-WHAT(何を)を緻密に行うことで、会社としての顧客価値を可視化する戦略設計ノウハウを持っています。これにより、単なる製品の機能ではなく、お客様と社会にとっての本質的な価値を共に創造していく基盤を築きます。
コトラーの進化論と人間中心主義
「近代マーケティングの父」と称されるフィリップ・コトラーは、マーケティングの進化を「マーケティング1.0」から「5.0」へと段階的に体系化しました。彼の最新著書『マーケティング5.0』では、AIやIoTといった先進技術を最大限に活用し、より深い「人間的価値」を創造することを提唱しています。
これは、テクノロジーを単なる効率化の道具ではなく、人間中心主義を実現するための手段として位置づける考え方です。日本マーケティング協会の新定義が「何をすべきか(目的)」を提示するのに対し、コトラーの『5.0』はそれを実現するための具体的な「どうやって(手段)」としてテクノロジーの活用を説いています。これら二つの理論は、現代のマーケティングが、収益追求から社会課題の解決へと進化していることを補完的に示唆しているのです。
戦略の骨格:普遍的なフレームワーク
目まぐるしく変化する現代においても、マーケティングの根幹をなす理論的フレームワークは、その有効性を失っていません。むしろ、デジタル技術の進展によって、これらの古典的なフレームワークをより深く、精密に活用できるようになりました。ここでは、マーケティング戦略立案の基本である「STP分析」と「4P戦略」を再確認します。
STP分析:戦略の羅針盤
STP分析は、Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の頭文字をとったもので、「誰に」「何を」「どのように」提供するかという戦略の方向性を定めるためのフレームワークです。
- セグメンテーション(Segmentation):市場を顧客のニーズや属性、行動などに基づいて細分化します。
- ターゲティング(Targeting):細分化した市場の中から、自社が最も競争優位性を発揮できるターゲット顧客を特定します。
- ポジショニング(Positioning):ターゲット顧客の心の中に、競合他社にはない独自の価値や立ち位置を確立します。
例えば、スターバックスは、STP戦略を駆使して「第三の場所(Third Place)」という独自のポジショニングを確立しました。単なるコーヒーチェーンとしてではなく、自宅や職場に続く「第三の居場所」として認識されることで、価格競争に陥ることなく、競合との差別化を実現したのです。
4P戦略:戦術のフレームワーク
4P戦略は、STP分析で定めた戦略を具体的な施策に落とし込むための戦術的なフレームワークです。Product(製品)、Price(価格)、Place(流通チャネル)、Promotion(販売促進)の4つの要素から構成されます。
- 製品(Product):ターゲット顧客のニーズを満たす製品やサービスを設計します。
- 価格(Price):製品の価値と市場の動向を考慮して、最適な価格を決定します。
- 流通チャネル(Place):顧客が製品を入手しやすい場所や方法を設計します。
- 販売促進活動(Promotion):顧客に製品の価値を効果的に伝達するためのコミュニケーション活動を計画します。
これらのフレームワークは、現代のデジタルマーケティングにおいても「変わらない本質」として機能します。テクノロジーは、STPと4Pをより精密に実行するための手段であり、それ自体が戦略ではないことを理解することが重要です。

私たちは、お客様自身が気づいていない、競争優位の源泉にあるUSP(独自の売り)を可視化することに力を入れています。これは、表面的な強みだけでなく、その背後にある「消費者や社会が本質的に求めている価値」を見つけ出す作業です。これにより、予算が限られていても、市場で圧倒的な存在感を発揮できる戦略を構築できます。
著名マーケターの視点と中小企業
予算やノウハウが限られている中小企業にとって、どのようにマーケティング戦略を立てればいいのでしょうか。ここでは、USJを再建した森岡毅氏の思想と、企業の存在意義を軸に置く「パーパスドリブン・マーケティング」を掘り下げます。
森岡毅氏の提言:市場の構造を掴む
株式会社刀を率いる森岡毅氏は、「予算も、ノウハウもなく、マーケティングに精通した人材もいない」中小企業でもマーケティングは機能すると断言しています。彼の主張の核心は、「今、売れるものは何か」という製品中心の思考に陥るのではなく、自社の商品を考える前提となる「市場の構造はどうなっているか?」あるいは「消費者は本質的に何を買っているのか?」を掴むことにあるというものです。
この視点は、STP分析における顧客インサイトの重要性と完全に一致します。この洞察がなければ、どんなに優れたツールや莫大な広告費を投じても、的外れな戦略に終わるリスクがあります。USJがほとんど設備投資費をかけずに「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド〜バックドロップ〜」で集客を大幅に伸ばした事例は、まさに「市場の本質」を捉えた戦略的思考の勝利です。
パーパス・マーケティング
現代の消費者は、製品の機能や価格だけでなく、その企業がどのような存在意義(パーパス)を掲げ、社会にどう貢献しているかを重視するようになっています。特に、ミレニアル世代やZ世代は、自分の価値観に合致するブランドに高い忠誠心を持つ傾向にあります。これは、公益社団法人日本マーケティング協会の新定義が示す「持続可能な社会の実現」という目標と軌を一にするものです。
アウトドアブランドのパタゴニアは、「我が故郷地球を救うためにビジネスを行う」というパーパスに基づき、熱狂的なファンを獲得しています。この戦略は、大企業のためだけのものではありません。むしろ、地域に根ざした中小企業にこそ大きなチャンスがあります。中小企業は、大企業には真似できない地域密着性や柔軟性を強みとして、パーパスを軸にした差別化を図ることが可能です。
デジタル時代の最新トレンド
デジタル化が進む現代において、マーケティングはテクノロジーと不可分な関係にあります。ここでは、最新の広告市場の動向と、中小企業でも活用できるテクノロジーについて解説します。
広告市場とメディア消費の変化
電通の「2024年 日本の広告費」によると、日本の総広告費は過去最高の7兆6,730億円に達し、その成長を牽引しているのは、前年比109.6%と大きく成長したインターネット広告費です。特に、SNS上の縦型動画広告や、コネクテッドTV(CTV)などの動画広告需要が高まっています。
これは、消費者のメディア消費行動が「放送」から「ストリーミング」へと移行していることを示唆しており、広告主もその変化に合わせて予算をシフトしていることがわかります。また、博報堂生活総合研究所の調査では、「鬼滅の刃」や「SPY✕FAMILY」といったアニメコンテンツが強力なリーチ力を持つことが明らかになっており、コンテンツとマーケティングの融合が新たな局面に入っていることがわかります。
→ 関連記事:【完全ロードマップ】マーケティング戦略立案の正しい手順とテンプレート
中小企業が活用すべきツール
AIやMA(マーケティングオートメーション)ツールは、マーケティングを劇的に効率化します。AIはコンテンツの自動生成やデータ分析を、MAツールは見込み顧客の育成やパーソナライズされたアプローチを可能にします。代表的なMAツールには、BtoBに強みを持つList Finderや、エンゲージメントに特化したMarketoなどがあります。また、AIを活用したマーケティングは、今後ますます重要になっていくでしょう。
高額なツールをすぐに導入するのが難しい中小企業でも、無料で利用できるツールはたくさんあります。これらのツールを戦略的に組み合わせることで、初期投資なしでデータ分析やコンテンツ作成の第一歩を踏み出すことが可能です。
→ 関連記事:【2025年最新】マーケティング戦略に必須のツールと選び方ガイド

高価なツールを導入しても、使いこなせなければ意味がありません。私たちは、戦略を実行する上での関係者との合意形成ノウハウと、現場と経営層の目線を合わせて組織としてマーケティング戦略を推進するプロジェクトマネジメントノウハウを持っています。これにより、ツール導入が単なる「投資」で終わらず、「成果」に繋がるよう、お客様に伴走します。
中小企業の成功事例に学ぶ
予算やノウハウに制約がある中小企業や地方企業が、どのようにして市場で成功を収めてきたか、具体的な事例から戦略のエッセンスを学びましょう。
ニッチ市場の開拓:アックスヤマザキ
ミシンメーカーの株式会社アックスヤマザキは、大手との競争に苦戦していました。そこで、ターゲットを「子育て世代」に絞り込み、彼らが本当に必要とする機能に特化した「子育てにちょうどいいミシン」を開発しました。余分な機能を削ぎ落とし、使いやすさを追求したこの商品は、初年度販売目標の3倍以上の受注を達成し、年商は1年で4億円から10億円超へと急成長しました。これは、自社の強みを「ミシン製造」から「子育て世代の課題解決」へと再定義したことの成功を示しています。
地域資源の活用とデジタル融合
地方企業は、デジタルマーケティングを活用することで、地理的な制約を克服できます。有限会社佐々木酒造店は、SNSを積極的に活用し、県外だけでなく台湾や香港からも商談を獲得しました。また、福島県の「ダイヤモンドルート・ジャパン」は、隣接する県と連携し、ターゲット国の嗜好に合わせた高品質なプロモーション動画をYouTubeで配信、数千万回再生を記録しました。これらは、地域というリアルな強みを、デジタルマーケティングで全国・世界に発信することで、新たな市場を切り開くことができることを示しています。
まとめ:統合戦略が鍵
現代のマーケティング戦略は、以下の3つの要素を不可分に含むことが明らかになりました。
- 目的の拡張:単なる収益追求を超え、社会やステークホルダーとの「価値共創」と「持続可能性」を追求することです。
- 戦略的思考:予算や規模に頼らず、「市場の本質」と「顧客インサイト」を深く理解し、独自のポジショニングを確立することです。
- テクノロジーの戦略的活用:デジタルツールを、単なる効率化だけでなく、より深い顧客体験や組織連携のために活用することです。
マーケティング戦略は、一度立てたら終わりではありません。市場、顧客、技術は絶えず変化しており、STP分析、市場リサーチ、そして4P戦略というサイクルを高速で回し、常に戦略を見直し、調整していく「継続的プロセス」として捉えることが不可欠です。
未来のマーケターに求められるのは、最新のテクノロジーを使いこなす技術的スキルに加え、社会の変化を読み解き、顧客の本質的なニーズと企業の存在意義を結びつける、より高次な「構想力」です。企業規模や業種を問わず、この統合的な視点を持つことこそが、激変する市場で持続的な成長を実現するための鍵となります。
よくあるご質問(FAQ)
マーケティング戦略の立案は、外部のコンサルタントに依頼すべきでしょうか?
必ずしもすべてを外部に依頼する必要はありません。ただし、自社内だけで「市場の本質」や「競争優位の源泉」を見つけ出すのは難しい場合があります。外部の専門家の客観的な視点を取り入れることで、社内では気づけなかった強みや課題を発見できる可能性が高まります。また、戦略の方向性について社内での合意形成を図る際にも、コンサルタントがファシリテーターとして機能するメリットもあります。
小規模なスタートアップでも、マーケティング戦略は必要ですか?
はい、規模に関わらず、マーケティング戦略は不可欠です。むしろ、リソースが限られているスタートアップこそ、ターゲットを絞り込み、効率的にリソースを配分するための戦略が重要になります。STP分析で自社のポジションを明確にし、無料や低コストのデジタルツールを戦略的に活用することで、大手企業に負けない成果を出すことは十分に可能です。
マーケティング戦略を立てても、成果が出ない場合はどうすればいいですか?
必ずしもすべてを外部に依頼する必要はありません。ただし、自社内だけで「市場の本質」や「競争優位の源泉」を見つけ出すのは難しい場合があります。外部の専門家の客観的な視点を取り入れることで、社内では気づけなかった強みや課題を発見できる可能性が高まります。また、戦略の方向性について社内での合意形成を図る際にも、コンサルタントがファシリテーターとして機能するメリットもあります。