- STP分析がマーケティング戦略でなぜ最重要なのか
- S(セグメンテーション)の具体的なやり方と4つの変数(軸)
- T(ターゲティング)の評価基準と3つの主要パターン
- P(ポジショニング)の具体的な手順と成功の鍵
- BtoCとBtoBの有名企業のSTP分析実践事例
- STP分析と4P戦略(マーケティングミックス)との関係性
「良い商品を作れば、自然と売れるはず」 「ターゲットは、この商品に興味があるすべての人です」
マーケティングの学習を始めたり、実務に関わり始めたりすると、このような言葉を耳にすることがあるかもしれません。しかし、モノや情報が溢れかえる現代において、この考え方で成功を収めるのは非常に困難です。なぜなら、「すべての人に向けたメッセージは、結局誰の心にも刺さらない」からです。
では、どうすれば自社の商品やサービスを、それを本当に必要としている人に届けられるのでしょうか?その答えこそが、マーケティング戦略の核となる「STP分析」です。
STP分析は、マーケティングの巨匠フィリップ・コトラーが提唱した、「誰に、どのような価値を提供するのか」を明確にするための最強のフレームワークです。この分析を行うことで、企業は自社の限られたリソース(ヒト・モノ・カネ・時間)を、最も成果の出る可能性の高い市場に集中投下することができます。
TSRコンサルティングが企業の戦略をご支援する際も、必ずこのSTP分析、特に「WHO-WHAT(誰に、何を)」の定義から始めます。この「戦略の羅針盤」があるかないかで、その後の施策の精度と成果は天と地ほどの差が生まれるのです。
この記事では、マーケティング初心者の方でもSTP分析を正しく理解し、実践できるよう、各ステップの具体的なやり方から、有名企業の事例、そして分析を成功させるためのコツまで、徹底的に解説していきます。
目次
- STP分析とは?(なぜ最強のフレームワークか)
- S:セグメンテーション(市場の細分化)
- T:ターゲティング(標的市場の選定)
- P:ポジショニング(自社の立ち位置)
- STP分析の実践事例(BtoC / BtoB)
- STP分析の次にやること(4P戦略へ)
- 分析の精度を高めるリサーチ手法
STP分析とは?(なぜ最強のフレームワークか)
STP分析は、Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の3つの英単語の頭文字を取ったマーケティングフレームワークです。この3つのステップを通じて、「市場を分類し、狙うべき顧客を定め、自社の独自の立ち位置を明確にする」ことができます。
マーケティング戦略の「核」
なぜSTP分析が「戦略の核」と呼ばれるのでしょうか?それは、マーケティング活動における最も重要な意思決定、すなわち「戦う場所(市場)」と「勝ち方(提供価値)」を決定するプロセスだからです。
多くの企業が陥りがちな失敗は、市場や競合の分析(3C分析など)を行った後、いきなり「何を売るか(4P)」という具体的な施策を考えてしまうことです。しかし、その間にSTP分析という「戦略立案」のプロセスを挟まないと、施策が的外れなものになってしまいます。
- 3C分析: 自社と市場の「現状」を把握する(フレームワーク10選参照)
- STP分析: 現状把握に基づき、「誰に、何を」という戦略の「核」を決定する
- 4P分析: 戦略の核に基づき、「どのように」実行するかという具体的な「施策」に落とし込む(4P戦略参照)
STP分析は、分析と実行を繋ぐ、まさに「戦略の背骨」なのです。
S・T・P 3つのステップの役割
STP分析は、以下の3つのステップで構成されます。
- Segmentation(セグメンテーション):
- 目的: 市場全体を把握し、共通のニーズや特徴を持つ小さなグループ(セグメント)に「分ける」こと。
- 例: 「自動車市場」を、「価格重視層」「ファミリー層」「高級志向層」「アウトドア層」などに分ける。
- Targeting(ターゲティング):
- 目的: 分けたセグメントの中から、自社の強みを最も活かせる、魅力的なセグメントを「選ぶ(狙う)」こと。
- 例: 自社の強みが「耐久性と積載量」であれば、「アウトドア層」をターゲットとして選ぶ。
- Positioning(ポジショニング):
- 目的: ターゲット顧客の心(認識)の中で、競合製品と比べて自社製品が「独自の立ち位置(明確な違い)」を確立すること。
- 例: 「アウトドア層」に対し、「競合A社よりも圧倒的にタフで、荷物も多く積める唯一の選択肢」として認識してもらう。
なぜ「すべての人」に売ってはいけないのか?
冒頭でも述べた通り、「すべての人」をターゲットにすることは、現代のマーケティングにおいて悪手とされています。その理由は主に2つあります。
- 顧客ニーズの多様化: 現代の消費者は、価値観やライフスタイルが非常に多様化しています。全員を満足させようとする製品は、結局、誰の心にも深く刺さらない「特徴のない」製品になってしまいます。
- 経営資源の限界: どんな大企業であっても、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)は有限です。全ての市場、全ての人にアプローチしようとすると、リソースが分散し、どの市場でも中途半端な結果に終わってしまいます。
STP分析は、「やらないこと」を決め、自社の貴重なリソースを「勝てる場所」に集中させるための、極めて合理的な戦略立案プロセスなのです。
S:セグメンテーション(市場の細分化)
セグメンテーションとは、市場全体を共通のニーズや特性を持つ小さなグループ(セグメント)に分ける作業です。ここで重要になるのが、「どのような切り口(変数)で分けるか」です。
セグメンテーションの4つの変数(切り口)
市場を分ける際の代表的な変数(軸)として、以下の4つが挙げられます。
- 地理的変数(ジオグラフィック)
- 切り口: 国、地域、都市の規模、気候、文化、宗教など。
- 例: 「関東地方の都市部」「寒冷地」「沿岸部」
- 活用例: エアコンメーカーが「寒冷地」セグメントには暖房機能の強いモデルを、蒸し暑い地域には除湿機能の強いモデルを訴求する。
- 人口動態変数(デモグラフィック)
- 切り口: 年齢、性別、家族構成、職業、年収、学歴など。
- 例: 「20代・女性・未婚」「40代・既婚・子供2人・世帯年収800万円以上」
- 活用例: 自動車メーカーが「ファミリー層」セグメントにはミニバンを、「若年層・独身」セグメントにはコンパクトカーを訴求する。
- 心理的変数(サイコグラフィック)
- 切り口: 価値観、ライフスタイル、性格、興味・関心、購買動機など。
- 例: 「環境意識が高い層」「ステータスを重視する層」「安定志向層」「流行に敏感な層」
- 活用例: オーガニック食品メーカーが「健康志向・環境意識が高い層」セグメントに訴求する。
- 行動変数(ビヘイビアル)
- 切り口: 購買履歴、使用頻度(ヘビーユーザー/ライトユーザー)、求める便益(ベネフィット)、購買チャネル(EC/実店舗)など。
- 例: 「週に3回以上利用するヘビーユーザー」「価格よりも品質を重視する層」「新製品を必ず試す層」
- 活用例: 化粧品メーカーが「価格よりも特定の効果(例:美白)を重視する層」セグメントに、高機能美容液を訴求する。
【重要】サイコグラフィック変数の活用法
かつてはデモグラフィック(年齢・性別など)での分類が主流でしたが、価値観が多様化した現代では、それだけでは不十分です。例えば、同じ「30代・男性・会社員」でも、「休日はインドアでゲーム三昧の人」と「毎週アウトドアでキャンプする人」では、求める商品も情報も全く異なります。
ここで重要になるのが、サイコグラフィック(心理的変数)です。「なぜ、その人はその商品が欲しいのか?」という、顧客の深層心理やライフスタイルで市場を切り分けることで、より本質的なニーズを捉えることができます。

サイコグラフィック変数は、TSRコンサルティングが最も重視する分析軸の一つです。なぜなら、競合他社が見落としている「独自の市場」を発見できる可能性が高いからです。私たちは、ターゲットユーザーを特定しづらいサイコグラフィックでセグメントしたユーザー層だけのアンケートを低価格で取得するノウハウを持っています。デモグラフィックでは見えない「顧客のインサイト」を掴むことが、戦略の第一歩です。
6R:セグメントの有効性チェック
市場を細分化したら、そのセグメントが「狙う価値があるか」を評価する必要があります。そのためのチェックリストが「6R」です。
- Realistic Scale(有効な規模): 市場規模は十分か?
- Rate of Growth(成長性): 今後、成長する見込みがあるか?
- Rival(競合状況): 競合は強すぎないか? 勝ち目はあるか?
- Rank(優先順位): 自社の戦略やビジョンと合っているか?
- Reach(到達可能性): そのセグメントにアプローチする手段(チャネル)はあるか?
- Response(測定可能性): アプローチした結果、反応を測定できるか?
これらの基準を満たさないセグメントは、たとえ魅力的(例:成長性が高い)に見えても、ターゲティングには適さない可能性があります。
T:ターゲティング(標的市場の選定)
ターゲティングとは、セグメンテーションで分けた市場セグメントを「6R」などの基準で評価し、その中から「自社が狙うべき標的(ターゲット)」を選定するプロセスです。
ターゲット市場の評価基準
ターゲティングの鍵は、「市場の魅力度」と「自社の強みの適合度」の2軸で判断することです。
- 市場の魅力度:
- 市場規模は大きいか?
- 今後、成長が見込めるか?
- 競合が少なく、収益を上げやすいか?
- 自社の強みの適合度:
- 自社の理念やビジョンに合っているか?
- 自社の技術やブランドといった強み(USP)を活かせるか?
- 競合に対して優位性(差別化)を築けるか?
どれだけ市場が魅力的でも、自社の強みが活かせない場所で戦うのは無謀です。逆に、自社の強みが活かせても、市場規模が小さすぎるとビジネスとして成り立ちません。この両方のバランスが取れたセグメントこそが、最適なターゲット市場となります。
3つのターゲティングパターン
市場の選定には、大きく分けて3つのパターンがあります。
- 無差別型マーケティング(マス・マーケティング)
- 戦略: 市場のセグメント間の違いを無視し、市場全体に対して単一の製品・サービスを提供する戦略。
- 例: かつてのコカ・コーラや、トイレットペーパーなどの日用品。
- 特徴: 大量生産・大量広告によるコスト削減効果が期待できますが、現代の多様化した市場では通用しにくくなっています。
- 差別型マーケティング
- 戦略: 複数のセグメントを選定し、それぞれのセグメントに対して異なる製品・サービスを提供する戦略。
- 例: トヨタ自動車(高級車「レクサス」、ファミリーカー「ノア」、エコカー「プリウス」など)。
- 特徴: 幅広い顧客ニーズに対応でき、市場全体での売上拡大が狙えますが、開発コストやマーケティングコストが増大します。
- 集中型マーケティング(ニッチ・マーケティング)
- 戦略: 特定の一つのセグメントに経営資源を集中し、その小さな市場で圧倒的なシェアを狙う戦略。
- 例: 高級スポーツカー専門のフェラーリ、特定の趣味に特化した専門店など。
- 特徴: 経営資源が限られる中小企業やスタートアップに適しています。特定のニーズに深く応えるため、高いブランドロイヤルティを築きやすいですが、市場が小さすぎるリスクや、ターゲット層のニーズが変化するリスクも伴います。

ターゲティングは、まさに「WHO-WHAT(誰に、何を)」を決定する、戦略の心臓部です。TSRコンサルティングでは、「価値を顧客に届けるターゲティング設計ノウハウと経験」を豊富に持っています。単に「市場が魅力的だから」という理由だけでなく、「そのターゲット顧客の課題を、自社の価値(WHAT)で本当に解決できるのか?」という視点で、戦略の解像度を極限まで高めていきます。
P:ポジショニング(自社の立ち位置)
ポジショニングとは、ターゲット顧客の心(認識)の中で、「競合と比べて、自社製品は何が優れているのか」という独自の立ち位置(ポジション)を明確にし、差別化を図るプロセスです。
ポジショニングの具体的な2ステップ
ポジショニングは、以下の2つのステップで進めると効果的です。
ステップ1:ポジショニングマップの作成
ポジショニングマップとは、ターゲット顧客が製品を選ぶ際に重視する2つの軸(KBF: Key Buying Factor)を取り、そのマップ上に自社と競合他社を配置した図のことです。
【作成手順】
- ターゲット顧客が製品購入時に重視する要素(例:価格、品質、機能、デザイン、手軽さなど)を多数洗い出します。
- その中から、特に重要な2つの軸を選びます。(例:「価格」軸と「品質」軸)
- その2軸でマトリクス(マップ)を作成します。
- マップ上に、自社と競合他社を配置します。
【分析のポイント】
- 競合がひしめき合っている場所(レッドオーシャン)はどこか?
- 競合が存在しない、空白の場所(ブルーオーシャン)はどこか?
- 自社は、その空白地帯を狙えるか? あるいは、競合がひしめき合う場所で、あえて戦うのか?
このマップを作成することで、自社が狙うべきポジションを視覚的に把握することができます。
ステップ2:独自の強み(USP)の明確化
マップ上で狙うべきポジションが決まったら、次にそのポジションを確立するための「差別化の根拠」を明確にします。これがUSP(Unique Selling Proposition)、すなわち「独自の売りの強み」です。
USPは、以下の3つの要素を満たしている必要があります。
- 顧客にとって価値がある(Customer Value): 顧客が「それが欲しい!」と思う便益(ベネフィット)であること。
- 競合他社にはない独自性(Unique): 競合が真似できない、あるいは真似していない強みであること。
- 自社が提供できる(Our Strength): 自社のリソースや技術で、確実に提供できる強みであること。
このUSPを「〇〇な人(ターゲット)のための、競合とは違う△△(独自の価値)を提供する製品」というように、簡潔な言葉(ポジショニング・ステートメント)で表現します。ポジショニングの鍵となるUSPですが、実は「自社が気づいていない競争優位の源泉」が社内に眠っているケースは非常に多いです。自社では「当たり前」だと思っていることが、顧客にとっては「唯一無二の価値」であることは珍しくありません。

余談ですが、差別化という言葉が適切ではない気がしており、限りなく「独自化」の方がやることは近いと考えた方がフィットするかなと思います。
ポジショニング確立の注意点
- 詰め込みすぎない: 独自の強みをアピールしたいあまり、「高品質で、低価格で、高機能で…」と多くの特徴を詰め込むと、結局何も伝わらない「ぼやけた」ポジションになってしまいます。強みは一つか二つに絞り込む勇気が重要です。
- 一貫性を保つ: ポジショニングが決まったら、その後の全てのマーケティング活動(広告、デザイン、価格設定、営業トークなど)に、そのポジショニングを一貫して反映させる必要があります。
STP分析の実践事例(BtoC / BtoB)
理論だけでなく、有名企業がSTP分析をどのように活用して成功したかを見てみましょう。BtoCとBtoBそれぞれの事例から、分析の具体的なイメージを掴みます。
【BtoC事例】スターバックス
スターバックスは、STP分析を巧みに活用し、単なるコーヒーショップではない独自の地位を築きました。
- S(セグメンテーション): コーヒー市場を「価格」「品質」「利用動機」などで細分化。
- (例:低価格・手軽さ重視層、品質・味重視層、場所・空間重視層など)
- T(ターゲティング): 「品質・味重視層」であり、かつ「場所・空間重視層」をターゲットに設定。具体的には、都市部で働く、比較的所得の高いビジネスパーソンや学生で、自宅や職場とは異なる「第三の場所(サードプレイス)」を求めている層。
- P(ポジショニング): 「従来の安価なコーヒーショップ」でも「格式張った高級喫茶店」でもない、「高品質なコーヒーと、洗練された居心地の良い空間(サードプレイス)を同時に提供する場所」としてポジショニング。
【BtoC事例】ユニクロ
ユニクロは、従来のファッション業界の常識を覆すSTP分析で、巨大市場を創出しました。
- S(セグメンテーション): 従来の「年齢」「性別」「流行への感度」といった軸ではなく、「顧客のライフスタイルや潜在的ニーズ」で市場を細分化。
- T(ターゲティング): 「流行に左右されず、高品質で機能的な普段着(LifeWear)を、手頃な価格で求めている」という、年齢や性別を超えた非常に大きな層をターゲットに設定。
- P(ポジショニング): 「安価だが品質が低い」ファストファッションや、「高品質だが高価な」ブランド服とは異なる、「圧倒的な高品質・高機能(ヒートテック、エアリズムなど)と、低価格を両立させた、あらゆる人のためのベーシックウェア」という独自のポジションを確立。
【BtoB事例】Salesforce(SaaS)
SaaS業界の巨人であるSalesforce(セールスフォース)は、顧客管理(CRM)市場において明確なSTP戦略を実行しました。
- S(セグメンテーション): 顧客管理システム市場を「企業規模」「導入形態(オンプレミス/クラウド)」などで細分化。
- T(ターゲティング): 従来の「オンプレミス型(自社サーバー設置型)」システムは高額で導入・維持コストが膨大だったため、高額な初期投資が難しい中小企業や、迅速な導入を求める大企業の部門をターゲットに設定。
- P(ポジショニング): 「高価で導入に時間がかかるオンプレミス型CRM」とは真逆の、「低コストな月額料金で、インターネット経由ですぐに利用開始できる、柔軟性の高いクラウド型CRM/SFA」というポジションを確立。これにより、「CRM=高価で複雑」という常識を覆しました。
STP分析の次にやること(4P戦略へ)
STP分析で「誰に、何を」が決まったら、次はその戦略を「どのように実行するか」という具体的な施策に落とし込む必要があります。ここで登場するのが「4P分析(マーケティングミックス)」です。
STP分析と4P戦略(マーケティングミックス)の関係
STP分析と4P分析は、「戦略」と「戦術(施策)」の関係にあり、密接に連携しています。STP分析で確立した「ポジショニング」を実現するために、4Pの各要素を設計していくのです。
- STP分析(戦略): 狙うべき市場と、競合との差別化ポイント(立ち位置)を決める。
- 4P分析(戦術): その立ち位置を実現するために、具体的な製品・価格・流通・販促を設計する。
(4P戦略について詳しくは、こちらの記事「4P戦略(マーケティングミックス)とは?製品・価格・流通・販促の組み合わせ方」をご覧ください。)
4P(製品・価格・流通・販促)への展開
例えば、先ほどのスターバックスの事例で言えば、確立したポジショニング(高品質なコーヒーとサードプレイス)を実現するために、4Pは以下のように一貫性を持って設計されています。
- Product(製品): 高品質なアラビカ種の豆、豊富なカスタマイズ、洗練された空間、質の高い接客(これら全てが「製品」)
- Price(価格): 高品質な体験に見合う、従来のコーヒーショップより高めの価格設定。
- Place(流通): ターゲット層(ビジネスパーソンなど)が集まる都市部の一等地、駅前、オフィスビル内への集中出店。
- Promotion(販促): 大規模なテレビCMは行わず、口コミやSNS、ブランドイメージを高める店舗体験そのものを販促として活用。
このように、STP分析で決めた戦略が、具体的な4P施策のすべてに反映されていることが分かります。
分析の精度を高めるリサーチ手法
STP分析は、分析者の「勘」や「思い込み」で行うものではありません。その精度を高めるためには、客観的なデータ収集とリサーチが不可欠です。
政府統計と公開データ
セグメンテーションやターゲティングの「市場規模」や「デモグラフィック」を把握するために、無料で利用できる信頼性の高いデータを活用しましょう。
- e-Stat(政府統計の総合窓口): 日本の国勢調査や家計調査など、あらゆる政府統計データにアクセスできます。市場の全体像を掴むのに最適です。
- 業界レポート: 各業界団体や調査会社が発表している市場動向レポートも、貴重な情報源となります。
Web解析ツール(GA4, GSC)
既に自社でWebサイトを運営している場合、Web解析ツールは宝の山です。
- Google Analytics 4 (GA4): サイト訪問者の年齢・性別、地域、興味・関心、サイト内での行動などを分析でき、行動変数やサイコグラフィック変数のヒントが得られます。
- Google Search Console (GSC): ユーザーがどのようなキーワードで検索してサイトにたどり着いたかが分かり、顧客の具体的なニーズ(検索意図)を把握できます。
リサーチ会社の活用
より専門的で、特定のニーズに基づいたデータを収集したい場合は、プロのリサーチ会社を活用するのも有効な手段です。
ユーザーインタビューの重要性
統計データやWeb解析データは「何が起きているか(What)」を教えてくれますが、「なぜそれが起きているのか(Why)」という深層心理までは教えてくれません。この「Why」を掘り下げるために、ターゲット顧客層への直接インタビュー(定性調査)が極めて重要です。

STP分析の成否は、インプットされるリサーチデータの質で決まります。特に「Why」を掘り下げるインタビューは重要ですが、やり方を間違えると表面的な回答しか得られません。TSRコンサルティングは、「意味ある1次情報になるアンケート設計ノウハウ」や、「社内のだれでもハイクオリティのインタビューが出来るインタビュー設計ノウハウ」を持っています。「顧客の本当の声」を引き出すことが、精度の高いSTP分析に繋がります。
まとめ
本記事では、マーケティング戦略の核となる「STP分析」について、その重要性から具体的な手順、実践事例までを詳しく解説しました。
- STP分析は、「すべての人」に売るのではなく、「勝てる市場」で「独自の価値」を提供するための戦略的フレームワークです。
- S(セグメンテーション)では、4つの変数(特にサイコグラフィック)を用いて市場を分け、6Rで有効性をチェックします。
- T(ターゲティング)では、「市場の魅力度」と「自社の強み」の2軸で、集中型・差別型・無差別型などのパターンから狙うべき市場を選定します。
- P(ポジショニング)では、マップを活用して「空白地帯」を見つけ、競合にはないUSP(独自の強み)を明確にします。
- STP分析は、客観的なリサーチに基づき、「戦略(STP)」から「戦術(4P)」へと一貫性を持って繋げることが成功の鍵です。
STP分析は、一度学べば、マーケターとしてのキャリアを通じてあなたを支え続ける強力な「羅針盤」となります。ぜひ、身近な商品やサービスをSTP分析に当てはめて、「なぜこの商品は、この場所で、この価格で売られているのか?」を考えるトレーニングをしてみてください。
FAQ
STP分析で最も重要なのはどのステップですか?
3つ全てのステップが重要で連携していますが、あえて挙げるなら「T(ターゲティング)」と「P(ポジショニング)」です。なぜなら、セグメンテーションはあくまで市場を「分ける」作業であり、戦略的な「意思決定」が行われるのは、「どこで戦うか(ターゲティング)」と「どう戦うか(ポジショニング)」を決定する瞬間だからです。特にターゲティングは、その後のリソース配分を決定づける最も重要な意思決定となります。
STP分析でよくある失敗例は?
最も多い失敗は、セグメンテーション(市場細分化)で満足してしまうことです。市場を細かく分けただけで、「どのセグメントを狙うのか」「そこでどう競合と差別化するのか」という肝心な戦略(TとP)に繋がっていないケースが多く見られます。また、リサーチ不足により、企業の「思い込み」でターゲティングやポジショニングを設定してしまい、実際の顧客ニーズとズレてしまうのも典型的な失敗例です。
BtoBとBtoCでSTP分析のやり方は変わりますか?
STP分析の基本的な考え方(分ける→選ぶ→立ち位置を決める)は、BtoBでもBtoCでも全く同じです。ただし、S(セグメンテーション)で用いる変数が大きく異なります。BtoCが個人のデモグラフィックやサイコグラフィックが中心なのに対し、BtoBでは「企業規模」「業種」「導入目的」「決裁プロセス」といった、組織としての変数が重要になります。

