マーケティング戦略とは?

マーケティング戦略とは、

「誰に(顧客)」「何を(価値)」「どのように(手段)」提供するかを体系的に計画することです

戦略と戦術の違い

マーケティングを語る上で、「戦略(Strategy)」と「戦術(Tactics)」の違いを理解することは非常に重要です。

  • 戦略:目的地(ゴール)と、そこに至るまでの全体的なルート(方向性)を定めること。
  • 戦術:そのルートを進むための具体的な手段や方法。

例えると、戦略が「東京から大阪へ行く」という計画なら、戦術は「新幹線に乗る」「高速道路を車で走る」「飛行機を利用する」といった具体的な移動手段にあたります。優れた成果を出すには、まず戦略という「設計図」をしっかりと描くことが不可欠です。戦略が曖昧なまま、いきなり戦術(例:SNS広告、YouTube動画制作)から入ってしまうと、施策がバラバラになり、費用対効果の低い結果を招きがちです。


現代のマーケティング概念

現代において、マーケティングは単なる「モノを売るための活動」という狭義の定義から脱却し、より広範で深い意味を持つようになりました

顧客や社会と価値を共創

2024年に日本マーケティング協会(JMA)が新たに定めた定義では、マーケティングは「顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである」と規定されています 。これは、マーケティングの目的が単なる「市場創造」から「より豊かで持続可能な社会の実現」へと拡張されたことを示唆しています 。

コトラーのマーケティング5.0

「近代マーケティングの父」と称されるフィリップ・コトラーは、マーケティングの変遷を「マーケティング1.0」から「5.0」へと体系化してきました 。最新のマーケティング5.0』では、AIやIoTといったテクノロジーを、単なる効率化のためではなく、「人間的価値」を創造するためのツールとして活用すべきだと提唱しています 。JMAの新定義が社会的・倫理的な目的を示す一方、コトラーの『5.0』はそれを実現するための具体的な「方法論」としてテクノロジーの活用を提示しているのです 。

戦略策定に不可欠なフレームワーク

マーケティング戦略を立てる上で、普遍的で強力なツールとなるのが、STP分析と4P戦略です。

1. STP分析

STP分析(Segmentation, Targeting, Positioning)は、「誰に」「何を」「どのように」提供するかという、戦略の方向性を定めるための骨格となるフレームワークです

セグメンテーション(Segmentation)

市場を顧客のニーズ、属性、行動などに基づいて細分化するプロセスです 。例えば、「健康志向の30代女性」「アウトドア好きなシニア層」といったように、市場を小さく区切ることで、顧客の具体的な姿が見えてきます。

ターゲティング(Targeting)

細分化したセグメントの中から、自社が最も競争優位性を発揮できるターゲット顧客を特定します 。ここでのポイントは、

「誰を相手にしないか」を明確にすることです。すべての顧客を相手にしようとすると、誰にも響かない中途半端な戦略になってしまいます。

太田高寛

多くの企業がこのターゲティングが曖昧なまま施策に入りがちです。私たちは、価値を顧客に届けるターゲティング設計ノウハウと経験があります。「誰に」向けて発信するのかを明確にすることで、限られた予算でも最大の効果を生み出せるようになります。

ポジショニング(Positioning)

ターゲット顧客の心の中に、競合にはない独自の価値や立ち位置を確立します 。スターバックスが「第三の場所(Third Place)」という独自のポジションを確立し、単なるコーヒーチェーンとしてではなく、顧客の「居場所」として認識されることで、価格競争を回避した事例は有名です 。

2. 4P戦略

STP分析で定めた戦略を、具体的な実行プランに落とし込むのが4P戦略(Product, Price, Place, Promotion)です

製品(Product)

ターゲット顧客のニーズを満たす製品やサービス、その特徴やデザインを設計します 。例えば、顧客の「手軽にミシンを使いたい」というニーズに対し、余分な機能を削ぎ落とし、使いやすさを追求した「子育てにちょうどいいミシン」を開発したアックスヤマザキの事例は、顧客インサイトを捉えた成功例です 。

価格(Price)

製品の価値や市場、競合を考慮して、最適な価格帯や料金体系を決定します

流通チャネル(Place)

顧客が最も効率よく製品を入手できる場所や方法を設計します 。オンラインとオフラインを融合させたOMO(Online Merges with Offline)戦略などが挙げられます。

販売促進活動(Promotion)

ターゲットに製品の価値を効果的に伝達するためのコミュニケーション活動を計画します 。SNS広告やコンテンツマーケティング、メールマーケティングなど、多様なツールを組み合わせて活用します。

太田高寛

戦略は“作って終わり”ではなく、実行と改善を繰り返すことで進化します。戦略は10回に1回当たればラッキーくらいだと思います。だからこそ、フレームワークで整理して誰でも共有できる形に残して何度でもトライできる状況を作ることが大切です。

企業規模別に見る戦略のヒント

大企業と中小企業では、マーケティング戦略を立てる上で注意すべき点が異なります。

大企業

豊富なリソース(資金、人材、ブランド力)を活かし、市場全体を狙う広範な戦略や、複数のセグメントに向けたマルチブランド戦略などを展開できます。

中小企業

限られたリソースの中で、いかに競争優位性を確立するかが鍵となります。

  • ニッチ市場を狙う:大手が手薄なニッチな市場を見つけ、そこで圧倒的な強みを発揮する戦略が有効です 。
  • 非資本的な武器を活用:「ガリガリ君」の奇抜なフレーバーのように、話題性やユニークなアイデアでメディアやSNSの注目を集めることで、莫大な広告費に頼らずに大きな露出効果を達成できます 。
  • パーパスを明確にする:製品や価格だけでなく、企業の存在意義(パーパス)を明確にすることで、顧客の共感を呼び、ブランドロイヤルティを高めることができます 。特に地域に根差した中小企業は、地域貢献というパーパスを掲げることで、大企業には真似できない強みを発揮できます 。
太田高寛

多くの経営者が「今、売れるものは何か」という製品中心の思考に陥りがちです。しかし、本当に重要なのは、その商品が売れる前提となる「市場の構造はどうなっているか?」を掴むこと。私たちは、自社が気づいていない競争優位の源泉にあるUSP(ユニーク・セリング・プロポジション)の可視化が可能です。

まとめ:戦略は「何をしないか」を決めること

マーケティング戦略とは、「誰に」「何を」「どのように」提供するかという計画を立てることであり、それは同時に「誰に何をしないか」を決めることでもあります。限られたリソースを最大限に活用するために、まずはSTP分析と4P戦略という基本的なフレームワークに沿って、自社の「勝ち筋」を明確にすることが重要です。この戦略の「設計図」がなければ、どんなに優れたツールや施策も効果を最大化することはできません。

よくあるご質問

マーケティング戦略を立てるのが難しいです。何から始めればいいですか?

まずは、「現状の把握」から始めることをお勧めします。自社の商品やサービスを客観的に評価し、市場全体や競合他社の動向を調べましょう。この段階で活用できるのが、3C分析(Customer, Competitor, Company)やSWOT分析(Strength, Weakness, Opportunity, Threat)といったフレームワークです。これらの分析を通じて、自社の強みと弱み、そして市場の機会と脅威を明確にすることで、戦略の方向性が見えてきます。

マーケティング戦略は一度立てたら終わりですか?

いいえ、そうではありません。市場や顧客のニーズ、競合の動向は常に変化しています。そのため、戦略は一度立てて終わりではなく、定期的に見直し、改善していく継続的なプロセスです。戦略を実行し、その成果を評価するためのKPI(重要業績評価指標)を設定し、PDCAサイクル(Plan, Do, Check, Action)を回すことが重要です。

中小企業でも、大企業のような本格的な戦略は必要ですか?

はい、必要です。むしろ、限られた予算や人材の中で大手と競争するには戦略が不可欠です。森岡毅氏がユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の再建において、莫大な設備投資に頼らずに集客を大幅に伸ばしたように、優れた戦略思考は資金力を凌駕します 。中小企業は、大企業にはない独自の強み(例:地域密着性、柔軟性)を活かしたニッチ戦略を立てることで、市場で優位性を築くことができます。