- 海外企業のインナーブランディング事例を学ぶ意味
- ジョンソン・エンド・ジョンソン、リッツ・カールトン、ネットフリックス、パタゴニアの理念と浸透の仕組み
- 4社の事例に共通する成功要因
- 日本企業が海外の事例を取り入れるときの注意点
- 自社の取り組みに生かすための進め方
インナーブランディングの事例を調べると、国内企業だけでなく、海外企業の取り組みも数多く紹介されています。理念を明文化し、それを社員の判断や行動の拠り所として長く使い続けてきた海外企業の事例には、自社の取り組みを考えるうえでのヒントが多く含まれています。
一方で、海外の事例をそのまま自社に取り入れようとすると、雇用慣行や組織文化の違いから、うまくいかないこともあります。大切なのは、各社が何をしたかだけでなく、なぜその仕組みが機能しているのかを読み解くことです。
この記事では、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ザ・リッツ・カールトン、ネットフリックス、パタゴニアの4社を取り上げ、各社が公式に公開している情報をもとに、理念の内容と浸透の仕組みを整理します。そのうえで、4社に共通する成功要因と、日本企業が取り入れるときの注意点、自社に生かすための進め方を解説します。
海外企業の事例から学ぶ意味
海外企業の事例は、理念を長く使い続けるための言語化の仕方や、行動・制度への落とし込み方を学ぶ材料になります。
インナーブランディングとは、企業が大切にしている理念・ビジョン・価値観を社内で共有し、社員がそれに共感して自発的に体現できる状態をめざす取り組みです。海外企業の中には、こうした理念を早くから明文化し、社内外に公開しながら運用してきた企業があります。
事例を読むときの視点
事例を読むときは、次の3つの視点を持つと、自社に生かせる学びを引き出しやすくなります。
| 視点 | 確かめたいこと |
|---|---|
| 言葉 | 理念はどのような言葉で、どのくらい具体的に書かれているか |
| 仕組み | 理念を行動や判断、制度にどうつなげているか |
| 運用 | 理念をどのように見直し、使い続けているか |
日本企業の事例とあわせて読む
海外企業の事例は、日本企業の事例とあわせて読むと、共通する考え方と、文化や雇用慣行によって異なる部分が見えやすくなります。国内外の事例は【事例集】インナーブランディング成功事例20選:大企業から中小企業まででも紹介しています。

海外の事例を紹介すると、「うちとは規模も文化も違う」という反応をいただくことがあります。たしかに仕組みそのものは真似しにくいのですが、理念をどう言葉にし、どう使い続けているかという考え方は、規模にかかわらず参考になると感じています。
ジョンソン・エンド・ジョンソン:「我が信条(Our Credo)」
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、責任を負う相手とその順番を明文化した「我が信条(Our Credo)」を、現在も経営の指針として掲げています。
「我が信条」の成り立ち
同社の公式サイトによると、「我が信条」は1943年にロバート・ウッド・ジョンソン2世によって書かれました。同社の株式公開を翌年に控えた時期に書かれた文書として紹介されており、現在も同社の経営理念として位置づけられています。
責任の順番を示している
「我が信条」の特徴は、会社が責任を負う相手を挙げ、その順番まで示している点です。
| 順番 | 責任を負う相手 |
|---|---|
| 最初 | 患者、医師、看護師をはじめ、製品やサービスを利用する人々 |
| 次 | 世界中で働く従業員 |
| その次 | 地域社会 |
| 最後 | 株主 |
従業員に対しては、一人ひとりを個人として尊重し、多様性と尊厳を重んじる職場を整えること、公正な報酬や安全な労働環境、公平な機会などを提供することが述べられています。
ここから学べること
責任の順番が明文化されていると、利害がぶつかる場面で、社員が何を優先して判断すべきかがわかりやすくなります。理念を「大切なことの一覧」で終わらせず、優先順位まで示すことで、判断の拠り所として使いやすくなる例と言えます。

理念を言葉にするとき、大切にしたいことを並べるだけで終わってしまうことはよくあります。迷ったときにどちらを優先するのかまで書いておくと、現場で使える理念になりやすいと思います。
ザ・リッツ・カールトン:ゴールド・スタンダード
ザ・リッツ・カールトンは、クレドやモットー、サービスの手順、行動指針などを「ゴールド・スタンダード」としてまとめ、理念から日々の行動までを一続きの言葉で示しています。
ゴールド・スタンダードの構成
同社のリーダーシップセンターの公式サイトでは、ゴールド・スタンダードの構成要素として次の6つが紹介されています。
| 構成要素 | 内容 |
|---|---|
| クレド | ゲストへの心からのおもてなしと快適さを最も大切な使命とする |
| モットー | 「We are Ladies and Gentlemen serving Ladies and Gentlemen.」 |
| サービスの3ステップ | 温かい挨拶とゲストの名前を呼ぶこと、ニーズへの先回りした対応、名前を呼んでの温かい見送り |
| サービスバリュー | 「I Am Proud To Be Ritz-Carlton」と題した12項目の行動指針 |
| シックス・ダイヤモンド | Mystique、Emotional Engagement、Functionalの3つのキーワード |
| 従業員への約束 | 信頼、誠実、尊重、高潔さ、献身の原則に基づき、従業員の才能を育み、力を与える |
理念と行動がつながっている
ゴールド・スタンダードの特徴は、使命を示すクレドから、具体的なサービスの手順や行動指針までが一つの体系として示されている点です。社員は、理念を抽象的な言葉として受け取るだけでなく、日々の接客で何をすればよいのかまで理解できます。
従業員への約束を含んでいる
もう一つの特徴は、会社が従業員に対して何を約束するのかが明文化されていることです。モットーでは、ゲストに仕える従業員自身も「紳士・淑女」であると位置づけています。社員に求めるだけでなく、会社が社員をどう扱うのかを示すことで、理念への信頼を得やすくなります。

ゴールド・スタンダードは、理念を行動の手順にまで分解している点が参考になると感じています。社員に「理念を体現してほしい」と伝えるなら、体現した姿が具体的に想像できる言葉まで用意しておくことが大切だと思います。
ネットフリックス:カルチャーメモ
ネットフリックスは、自社の文化や働き方の考え方をまとめた「カルチャーメモ」を採用サイトで公開し、事業の成長に合わせて更新し続けています。
カルチャーメモで示されている考え方
同社の採用サイトで公開されているカルチャーメモでは、次のような考え方が示されています。
| 考え方 | 内容 |
|---|---|
| ドリームチーム | 高い成果を出す人材を集め、個人の能力だけでなく協働する力も重視する |
| プロセスより人 | 情報と自由を与えられた人ほど良い判断ができると考え、ルールを最小限にする |
| 自由と責任 | 自律的で責任感の強い人材を前提とする |
| コントロールではなく文脈を | 管理職は細かく指示するより、良い判断ができるよう背景や方向性を示す |
| 率直さ | 建設的なフィードバックを日常業務の一部として継続的に行う |
| キーパーテスト | 「この人が辞めると言ったら引き留めるか」を問う |
意思決定については、情報を持つ責任者が決めること、決定の前に異なる意見を積極的に募ること、決まった後は反対した人も実行に協力することなども示されています。
公開し、更新し続けている
カルチャーメモは公開されており、全文をダウンロードすることもできます。また、事業の成長とともに文化とこの文書も変わっていくものとされ、文化を守るのではなく改善し続けることをめざすと述べられています。
ここから学べること
理念や文化を一度決めて終わりにするのではなく、組織の変化に合わせて見直し、その考え方を社内外に公開している点が特徴です。公開することで、入社前の段階から考え方に共感する人が集まりやすくなり、入社後のギャップを小さくすることにもつながります。

カルチャーメモの考え方には、日本の雇用慣行にそのまま当てはめにくい部分もあります。ただ、「文化は更新していくもの」という姿勢や、管理職の役割を具体的に言葉にしている点は、多くの会社で参考にできると感じています。
パタゴニア:コアバリュー
パタゴニアは、品質や環境への姿勢などを5つのコアバリューとして示し、次の50年に向けてその内容を更新しています。
5つのコアバリュー
同社の公式サイトでは、次の5つのコアバリューが示されています。
| コアバリュー | 中心となる一文 |
|---|---|
| Quality(品質) | 最高の製品をつくり、最高のサービスを提供し、あらゆることを絶えず改善する |
| Integrity(誠実さ) | 自分たちの行いを率直に見直し、失敗から学び、約束を守る |
| Environmentalism(環境保護) | 私たちの故郷である地球を守る |
| Justice(公正) | 会社として、また地域社会において、公正かつ公平で、反人種差別であること |
| Not Bound by Convention(慣習にとらわれない) | 自分たちのやり方で行う |
次の50年に向けて更新している
公式サイトでは、次の50年に向けて、ありたい会社の姿を反映するようにコアバリューを更新したことが述べられています。長い歴史を持つ会社であっても、価値観を固定せず、めざす姿に合わせて言葉を見直している例です。
ここから学べること
各コアバリューが短い一文で示されているため、覚えやすく、日々の判断の場面でも思い出しやすくなっています。価値観を短く言い切ることと、その背景を補足する説明を組み合わせる方法は、自社の理念を見直すときの参考になります。

理念の言葉は、長く丁寧に書くほど伝わると思われがちですが、現場で思い出してもらうには短さも大切だと感じています。短い言葉と背景の説明をセットで用意しておくと、使いやすさと深さを両立しやすいと思います。
4社に共通する成功要因
4社の事例に共通するのは、理念を具体的な言葉で示し、行動や判断の基準にまで落とし込み、公開と見直しを続けている点です。
| 成功要因 | 4社の事例で見られること | 自社で確かめたいこと |
|---|---|---|
| 判断に使える言葉 | 責任の順番、行動の手順、意思決定の考え方まで示している | 理念が判断に迷ったときに使える言葉になっているか |
| 行動への落とし込み | サービスの手順や行動指針、管理職の役割を明文化している | 理念を体現した行動が具体的に想像できるか |
| 会社から社員への約束 | 従業員への責任や約束を明文化している | 社員に求めるだけでなく、会社の約束も示しているか |
| 公開と一貫性 | 理念や文化を公式サイトなどで社外にも公開している | 社外に見せられるほど、社内の実態と言葉が一致しているか |
| 見直し続ける姿勢 | 組織の変化に合わせて内容を更新している | 理念を見直す機会と方法を決めているか |
言葉と実態が一致している
理念を社外にまで公開できるのは、言葉と社内の実態が一致しているからこそです。言葉だけが立派で実態が伴っていなければ、社員は理念を建前と受け止めてしまいます。
スターバックスの事例もあわせて
海外発祥の企業の事例としては、スターバックスの取り組みも多く紹介されています。従業員を「パートナー」と呼ぶ考え方や理念浸透の仕組みは、スターバックスのインナーブランディング:パートナーと理念浸透の仕組みを読み解くで詳しく紹介しています。

4社に共通しているのは、理念を飾るものではなく、使うものとして扱っている点だと感じています。使われていない理念は、どれだけ良い言葉でも少しずつ形だけのものになっていくと思います。
日本企業が取り入れるときの注意点
海外の事例は、仕組みをそのまま真似るのではなく、背景にある考え方を自社の文化や雇用慣行に合わせて取り入れることが大切です。
| 注意点 | 起こりやすいこと | 対策 |
|---|---|---|
| 雇用慣行の違い | 人材の入れ替えを前提とした考え方が、自社の雇用の前提と合わない | 仕組みではなく、考え方の部分を参考にする |
| 組織文化の違い | 率直なフィードバックなど、文化的に受け入れにくい要素がある | 自社の社員が受け入れやすい形に置き換える |
| 言葉の翻訳 | 英語の表現を直訳すると、意味が伝わりにくい | 自社の言葉で言い換え、背景を説明する |
| 規模や業種の違い | 大企業や特定の業種の仕組みが、自社の規模に合わない | 自社の規模で続けられる範囲に絞る |
制度に関わる部分は慎重に
人材の評価や処遇に関わる考え方を取り入れる場合は、日本の労働法制や自社の就業規則との関係を確認する必要があります。社内の人事・労務の担当者や専門家に相談したうえで検討しましょう。
英語の理念を使う場合
グローバルに事業を展開する会社では、英語で理念を示すこともあります。その場合も、各国の社員が自分の言葉で理解できるよう、背景の説明や具体例を用意することが大切です。

海外の事例を紹介するときは、「この仕組みを入れましょう」ではなく、「この会社はなぜこうしたのか」を一緒に考えるようにしています。その方が、自社に合った形を見つけやすいと感じています。
自社の取り組みに生かす進め方
海外の事例を自社に生かすには、現在の理念を点検し、取り入れたい考え方を一つに絞り、小さく試して見直すという順番で進めると無理がありません。
自社の理念を点検する
まず、4社に共通する成功要因の表を使って、自社の理念が判断に使える言葉になっているか、行動に落とし込まれているか、会社から社員への約束が示されているかを確かめます。
取り入れたい考え方を一つに絞る
点検の結果から、自社で特に足りない部分を一つ選びます。たとえば、理念に優先順位がないなら責任の順番を考える、行動指針がないなら理念を具体的な行動に分解する、といったように、取り組むテーマを絞ります。
小さく試して見直す
選んだテーマについて、一つの部署や一つの場面で試してみます。社員の反応を確かめながら、自社に合った形に整えてから広げていきます。進め方の全体像はインナーブランディングの進め方ロードマップ:企画、設計、実行、評価の7ステップで紹介しています。

事例を読んで刺激を受けると、一度にいろいろなことを取り入れたくなります。ただ、社員の側から見ると変化が多すぎて受け止めきれないこともあるので、一つずつ確かめながら進める方がうまくいきやすいと思います。
自社に合ったインナーブランディングを相談したい方へ
TSRコンサルティングでは、社員の意思統一や部門間の連携といった組織課題をインナーブランディングの観点から診断し、国内外の事例も参考にしながら、計画立案から実行まで助言・伴走します。相談から実務支援、社内に入っての課題抽出まで対応しており、料金は月5万円(税抜)からです。「他社の事例を自社にどう生かせばよいかわからない」という段階でもお気軽にご相談ください。
まとめ
- 海外企業の事例は、理念の言語化、行動や制度への落とし込み、見直しの仕方を学ぶ材料になる
- J&Jは責任の順番を、リッツ・カールトンは理念から行動の手順までを、ネットフリックスは文化の考え方を、パタゴニアは短い一文のコアバリューを示している
- 共通する成功要因は、判断に使える言葉、行動への落とし込み、会社から社員への約束、公開と一貫性、見直し続ける姿勢
- 取り入れるときは雇用慣行や文化の違いを踏まえ、考え方の部分を自社の言葉に置き換え、一つずつ試して見直す
よくある質問
海外企業の事例は日本企業でも参考になりますか?
参考になります。ただし、雇用慣行や組織文化が異なるため、仕組みをそのまま取り入れるのではなく、理念の言語化の仕方や、行動への落とし込み方といった考え方の部分を参考にすることが大切です。
理念を英語でつくるべきですか?
一概には言えません。海外拠点や外国籍の社員が多い会社では英語で示すことも選択肢になります。どの言語であっても、社員が自分の言葉で理解できるよう、背景の説明や具体例をあわせて用意することが大切です。
理念はどのくらいの頻度で見直せばよいですか?
決まった周期はありません。事業や組織が大きく変わるとき、周年などの節目、社員の受け止め方に変化が見られたときなどが見直しのきっかけになります。パタゴニアのように、次の時代に向けて価値観の言葉を更新する例もあります。
理念を社外に公開する必要はありますか?
必須ではありませんが、公開することで、考え方に共感する人が集まりやすくなるといった効果が期待できます。一方で、社内の実態と言葉が一致していないと、社外からの信頼を損ねるおそれがあるため、実態を整えたうえで公開することが大切です。
海外の事例はどこで調べればよいですか?
各社の公式サイトや採用サイトで、理念や文化に関する考え方を公開していることがあります。二次情報だけに頼らず、できるだけ各社が公式に発信している情報を確認すると、正確な内容をつかみやすくなります。
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