- インナーブランディングにおけるワークショップの役割と、研修との違い
- 理念策定・自分ごと化・行動指針づくりなど、目的別のワークショップの種類
- 目的設定からプログラム作成、事前準備までの設計の6つの手順
- ワールドカフェなどの代表的な手法と、半日プログラムのタイムテーブル例
- 当日の進行のコツと、終了後のフォロー・効果測定の進め方
理念やビジョンを社員に浸透させる方法として、ワークショップを検討する企業が増えています。講義形式の研修で理念を説明しても、「内容はわかったが、自分の仕事とどうつながるのかはピンとこない」という反応で終わってしまうことは少なくありません。社員自身が考え、話し合い、自分の言葉にするワークショップは、その壁を越える手段として期待されています。
一方で、ワークショップは設計しだいで成果が大きく変わる施策でもあります。目的があいまいなまま付箋とペンを用意しても、「楽しかったけれど、何が残ったのかわからない」という結果になりがちです。誰に、何を持ち帰ってもらうのかを決め、それに合った手法と進行を選ぶことが欠かせません。
この記事では、インナーブランディングを担当する人事・広報・経営企画の方に向けて、理念浸透のためのワークショップの設計方法を整理します。研修との違い、目的別の種類、設計の手順、代表的な手法、プログラム例、当日の進行のコツ、終了後のフォローと効果測定まで、初めて企画する方にもわかるように順を追って解説します。
インナーブランディングにおけるワークショップとは
ワークショップは、参加者が対話と作業を通じて理念を自分の言葉に置き換え、行動につなげるための参加型の場です。
インナーブランディングとは、企業が大切にしている理念・ビジョン・価値観を社内に浸透させ、社員がそれに共感して自発的に体現できる状態をめざす取り組みです。その中でワークショップは、社員が受け身で情報を受け取るのではなく、自ら考え、他の参加者と意見を交わしながら理解を深める場として位置づけられます。
研修との違い
研修とワークショップは重なる部分も多いですが、主なねらいと進め方に違いがあります。
| 観点 | 研修(講義中心) | ワークショップ |
|---|---|---|
| 主なねらい | 知識や考え方を正しく伝える | 参加者の考えを引き出し、合意や気づきをつくる |
| 進め方 | 講師から参加者への説明が中心 | 参加者同士の対話と作業が中心 |
| 運営者の役割 | 講師として教える | ファシリテーターとして場を進める |
| 持ち帰るもの | 理解した知識 | 自分の言葉、行動の宣言、共同でつくった成果物 |
実際には、理念の背景を講義で伝えたあとにワークショップで自分ごと化するなど、両方を組み合わせることが多くなります。研修全体の組み立て方はインナーブランディング研修プログラムの作り方:対象者別の設計から効果測定までで詳しく紹介しています。
ワークショップが向いている場面
ワークショップは、正解が一つに決まらないテーマや、参加者の納得感が重要なテーマに向いています。たとえば「理念を自分の部署の仕事に当てはめると何になるか」「部署を越えて協力するために何ができるか」といった問いは、講義で答えを伝えるより、参加者自身が考えた方が行動につながりやすくなります。

ワークショップは「楽しい場」をつくることが目的ではなく、終わったあとに参加者が何を持ち帰るかがすべてだと考えています。設計の最初に、持ち帰ってほしいものを一文で書いておくとぶれにくくなると思います。
目的別に見るワークショップの種類
インナーブランディングのワークショップは、理念をつくる、理解する、行動に落とし込む、つながりをつくる、振り返るという目的によって種類が分かれます。
どの段階の課題を解決したいのかによって、選ぶべきワークショップは変わります。主な種類を目的別に整理します。
| 種類 | 主な目的 | 主な対象 | 成果物の例 |
|---|---|---|---|
| 理念策定型 | 理念・ビジョン・価値観を言葉にする | 経営層、選抜メンバー | 理念やバリューの案 |
| 自分ごと化型 | 既存の理念を自分の仕事に結びつける | 一般社員、新入社員 | 理念を体現する自分の行動例 |
| 行動指針づくり型 | 部署ごとの具体的な行動基準をつくる | 部署単位のチーム | 部署の行動指針 |
| 横連携型 | 部署を越えた相互理解と協力をつくる | 複数部署の混成チーム | 部署間で協力するためのアイデア |
| 振り返り型 | 取り組みの進み具合を確かめ、次に生かす | 施策に参加したメンバー | 改善点と次の行動 |
理念策定型と自分ごと化型の違い
理念策定型は、新しく理念をつくる、あるいは見直す段階で、社員の声を取り入れるために行います。経営層だけで決めた理念より、社員が策定の過程に関わった理念の方が、浸透の段階で受け入れられやすいと言われます。一方、自分ごと化型は、すでにある理念を社員一人ひとりが自分の仕事に結びつけることが目的です。インナーブランディングで最も実施されることが多いのは、この自分ごと化型だと考えられます。

理念をつくる段階から社員に関わってもらうと、完成したときに「自分たちでつくったもの」という感覚が生まれやすいと感じています。すべてを一緒に決める必要はなく、意見を聞く場があるだけでも受け止め方は変わると思います。
ワークショップ設計の6つの手順
ワークショップは、目的、対象者、持ち帰るもの、手法、プログラム、事前準備の順に決めていくと、ねらいのぶれない場をつくれます。
- 目的を決める:インナーブランディング全体の中で、このワークショップが何を担うのかを決める
- 対象者と人数を決める:誰に参加してもらうか、階層や部署をどう組み合わせるかを決める
- 持ち帰るものを決める:終了時に参加者の手元に残るもの(言葉、行動の宣言、成果物)を決める
- 手法を選ぶ:目的と人数に合った対話や作業の手法を選ぶ
- プログラムを組む:時間配分と問いの順番を決め、タイムテーブルにする
- 事前準備をする:会場や道具、参加者への事前の案内、経営層の関わり方を準備する
目的と持ち帰るものを先に決める
手順の中で最も重要なのが、1と3です。たとえば「理念の中の『顧客の期待を超える』について、各自が明日から実践する行動を一つ決める」のように、終了時の状態を具体的に決めておくと、手法や問いを選ぶ基準ができます。インナーブランディング全体の目的の整理はインナーブランディングの目的の決め方:類型・KPI対応表と経営合意の進め方が参考になります。
対象者の組み合わせ方
参加者の組み合わせは、目的によって変えます。部署の行動指針をつくるなら同じ部署のメンバーで、部署を越えた相互理解をつくるなら混成のグループで行います。役職の違う人が同じグループに入ると、若手が発言しにくくなる場合があるため、階層を分けるか、発言のルールを工夫するなどの配慮が必要です。
問いの立て方
ワークショップの成否は、参加者に投げかける問いで大きく変わります。「理念についてどう思いますか」のような漠然とした問いより、「理念を体現していると感じた同僚の行動はどんなものでしたか」のように、具体的な経験を思い出せる問いの方が、対話が深まりやすくなります。

問いは、参加者が自分の経験から答えられるものにすると話が弾みやすいと感じています。抽象的な問いから入ると、正解を探すような雰囲気になり、本音が出にくくなることが多いと思います。
インナーブランディングで使える代表的な手法
代表的な手法には、ワールドカフェ、付箋を使った意見の整理、エピソードの共有、ありたい姿を描くワークなどがあり、目的と人数で使い分けます。
ワールドカフェ
ワールドカフェは、アニータ・ブラウン氏とデイビッド・アイザックス氏が1995年にアメリカで考案した対話の手法です。4〜5人程度の少人数のテーブルで話し合い、一定時間ごとにテーブルホスト以外のメンバーが別のテーブルに移動して対話を続けます。最後に元のテーブルに戻って得た気づきを共有し、全体で振り返ります。多くの人の考えに触れられるため、部署を越えた相互理解や、理念に対する多様な受け止め方を知りたい場面に向いています。
付箋を使った意見の出し合いと整理
参加者が付箋に意見を書き出し、似たものをグループにまとめて整理する方法です。文化人類学者の川喜田二郎氏が考案したKJ法がよく知られています。発言が苦手な人も意見を出しやすく、理念策定型や行動指針づくり型で、多くの意見を集めて言葉にまとめたいときに使いやすい手法です。
エピソードの共有
理念を体現していると感じた自分や同僚の行動を、具体的なエピソードとして語り合う方法です。抽象的な理念が具体的な行動と結びつき、参加者同士がお互いの仕事を知るきっかけにもなります。自分ごと化型のワークショップの導入として取り入れやすい手法です。
ありたい姿を描くワーク
数年後に組織や自分がどうなっていたいかを描き、そこから逆算して今できることを考える方法です。ビジョンの浸透や、行動の宣言につなげたいときに向いています。
| 手法 | 向いている目的 | 適した人数の目安 |
|---|---|---|
| ワールドカフェ | 相互理解、多様な意見に触れる | 数十人以上でも可 |
| 付箋を使った整理 | 意見を集めて言葉にまとめる | 1グループ4〜6人 |
| エピソードの共有 | 理念と行動を結びつける | ペア〜少人数 |
| ありたい姿を描くワーク | ビジョンの浸透、行動の宣言 | 個人〜少人数 |

手法そのものより、その手法で何を話し合ってもらうかの方がずっと大切だと感じています。慣れないうちは手法を一つか二つに絞り、問いと時間配分を丁寧に考える方がうまくいきやすいと思います。
ワークショップのプログラム例
自分ごと化を目的とした半日のプログラムなら、導入、理念の背景の共有、エピソードの共有、自分の行動を考えるワーク、宣言と振り返りという流れが組みやすいでしょう。
ここでは、既存の理念を一般社員に自分ごと化してもらう、約3時間のプログラム例を紹介します。時間配分は参加人数や会場に合わせて調整してください。
| 時間の目安 | 内容 | ねらい |
|---|---|---|
| 15分 | オープニング:目的とルールの説明、アイスブレイク | 話しやすい雰囲気をつくる |
| 25分 | 理念の背景の共有:経営層やゆかりのある社員が語る | 理念が生まれた理由を知る |
| 40分 | エピソードの共有:理念を感じた行動を少人数で語る | 理念と行動を結びつける |
| 10分 | 休憩 | — |
| 50分 | 自分ごと化のワーク:自分の仕事に当てはめた行動を考える | 自分の言葉に置き換える |
| 30分 | 行動の宣言:グループ内で発表し、互いにコメントする | 実践への意欲を高める |
| 10分 | 振り返りとアンケート | 気づきを言葉にし、反応を集める |
オンラインで実施する場合
拠点が分かれている企業では、オンラインでワークショップを行うこともあります。オンラインの場合は、集中力が続きにくいため一回の時間を短めにし、少人数に分かれて話せる機能を使って対話の時間を確保します。共同で書き込めるオンラインのホワイトボードを使えば、付箋を使ったワークも実施できます。

理念の背景を語る時間に、経営者だけでなく、理念が生まれた頃を知る社員に話してもらうと、参加者の受け止め方がぐっと身近になる印象があります。誰が語るかも、プログラムの大事な要素だと思います。
当日の進行とファシリテーションのコツ
当日は、目的の共有、話しやすい場づくり、時間の管理、参加者の言葉の尊重を意識し、ファシリテーターは答えを出すより問いを深める役に徹します。
冒頭で目的と意義を伝える
ワークショップの冒頭で、なぜこの場を設けたのか、終わったときに何を持ち帰ってほしいのかを伝えます。企画した部署だけでなく、経営層やその場の責任者が自分の言葉で意義を語ると、参加者の受け止め方が変わります。TSRコンサルティングが実施した営業職向けの社内セミナーでも、企画者が社長のメッセージと絡めて冒頭に講義の意義を説明する進め方をとりました(営業職を対象にインナーブランディングセミナーを開催)。
話しやすい場をつくる工夫
- 席をあらかじめ指定し、ネームプレートを用意して名前で呼び合えるようにする
- 「否定しない」「全員が話す」などの対話のルールを最初に共有する
- 事前に簡単な課題を出しておき、当日に考える負担を軽くする
- 役職の違いで発言しにくくならないよう、グループの組み方を工夫する
前述のセミナーでも、座席指定とネームプレートで参加者を名指しして対話しやすくする工夫や、事前ワークで基礎知識を確認する工夫を取り入れました。
進行中に気をつけること
ファシリテーターは、参加者の意見に評価を加えず、「それは具体的にどんな場面ですか」と問いを重ねて考えを深める役割に徹します。話が脱線したときや、一部の人だけが話している場合は、問いに立ち返ったり、まだ話していない人に声をかけたりして場を整えます。時間配分は計画どおりにいかないことも多いため、削ってもよいパートをあらかじめ決めておくと慌てずに済みます。

進行は台本どおりに進めることより、その場の参加者の様子に合わせて調整することの方が大切だと感じています。台本はあくまで地図のようなもので、場の空気を見ながら柔軟に使うくらいがちょうどよいと思います。
終了後のフォローと効果測定
ワークショップの成果を行動につなげるには、終了直後のアンケート、宣言した行動の振り返り、社内での共有という3つのフォローを組み合わせます。
ワークショップは、終わった時点では参加者の気持ちが高まっている状態です。その気持ちを日々の行動に移してもらうには、終了後のフォローが欠かせません。
終了直後にアンケートをとる
参加者の反応や気づきは、時間がたつと薄れていきます。終了の直前にその場でアンケートをとると、回収率が高く、記憶が新しいうちの率直な声を集められます。満足度だけでなく、「明日から何を実践するか」「理念についての理解は変わったか」なども聞いておくと、効果測定の材料になります。
宣言した行動を振り返る
ワークショップで宣言した行動を、数週間後や数か月後に振り返る機会を設けます。上司との1on1や部署の定例会議の中で確認する形にすると、新しい場を設けなくても続けやすくなります。
社内で共有する
ワークショップで生まれた言葉や行動の宣言を、社内報や社内ポータルで紹介すると、参加しなかった社員にも取り組みが伝わり、参加者にとっても励みになります。
効果を段階ごとに確かめる
| 段階 | 確かめたいこと | 方法の例 |
|---|---|---|
| 反応 | 参加者が意義を感じたか | 終了直後のアンケート |
| 理解 | 理念の理解が深まったか | アンケートの設問、自由記述 |
| 行動 | 宣言した行動を実践しているか | 1on1や定例会議での振り返り |
| 組織の変化 | 職場の判断や協力が変わったか | エンゲージメント調査、定点のアンケート |
アンケートの設計はインナーブランディングのアンケート活用法:調査の種類・設問例から結果の生かし方までで詳しく紹介しています。

ワークショップが終わった直後の熱量は、何もしなければ数週間で元に戻ってしまうことが多いと感じています。宣言した行動を、既存の1on1や会議の中で一言確認するだけでも、定着の度合いは大きく変わると思います。
理念浸透のワークショップの企画・運営を相談したい方へ
TSRコンサルティングでは、社員の意思統一や部門間の連携といった組織課題をインナーブランディングの観点から診断し、ワークショップや研修をはじめとする社内施策の進め方について、プランニングから実行まで助言・伴走します。相談から実務支援、内部に入っての課題抽出まで対応しており、料金は月5万円(税抜)からです。「ワークショップを企画したいが、何から決めればよいかわからない」という段階でもお気軽にご相談ください。
まとめ
- ワークショップは、社員が対話と作業を通じて理念を自分の言葉に置き換え、行動につなげるための参加型の場
- 理念策定、自分ごと化、行動指針づくり、横連携、振り返りなど目的で種類が分かれ、目的と持ち帰るものを最初に決める
- ワールドカフェや付箋を使った整理などの手法を目的と人数で選び、具体的な経験を思い出せる問いを用意する
- 冒頭での意義の共有と話しやすい場づくりを意識し、終了後はアンケート、行動の振り返り、社内での共有でフォローする
よくある質問
インナーブランディングのワークショップは何人くらいで行うのがよいですか?
手法によって異なります。対話は1グループ4〜6人程度が話しやすく、ワールドカフェのように多人数でも実施できる手法もあります。全体の人数より、グループの人数と組み合わせ方を目的に合わせて決めることが大切です。
ワークショップと研修はどう使い分ければよいですか?
理念の背景など正しく伝えたい知識は研修(講義)で、自分の仕事への当てはめや合意づくりなど正解が一つでないテーマはワークショップで扱うのが一般的です。両方を組み合わせて一つのプログラムにすることも多くあります。
ファシリテーターは社内の人でも務まりますか?
務まります。ただし、参加者の上司や評価者がファシリテーターを務めると本音が出にくい場合があります。中立的な立場の人を選ぶか、外部の支援を受けるなど、参加者が安心して話せる体制を考えることが大切です。
オンラインでも効果はありますか?
工夫しだいで効果は期待できます。一回の時間を短めにし、少人数で話せる機能やオンラインのホワイトボードを活用して対話の時間を確保します。拠点が分かれている企業では、参加しやすさの面で利点もあります。
ワークショップの効果はどう測ればよいですか?
終了直後のアンケートで反応と理解を確かめ、宣言した行動を数週間から数か月後に1on1などで振り返ります。中長期ではエンゲージメント調査などで職場の変化を確認し、段階ごとに見ていくのがおすすめです。
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